人と人が行き交う「駅」で
ふれあいとつながりを

人と人が行き交う「駅」で ふれあいとつながりを
おもてなし

あらかわ区 まちの駅ネットワーク

下町でさえ薄れゆく人情
風通しの悪さを憂いて

下町でさえ薄れゆく人情
風通しの悪さを憂いて

「まちの駅」とは、「道の駅」の地域版として1998年ころから全国でスタートした取り組み。「道の駅」のように新しく専用施設をつくるのではなく、既存の店舗や施設の一部を使って、地域の人や街を訪れた人たちに無料休憩、トイレ、地域情報などを提供する場所です。2009年、荒川区に「まちの駅」を作ろうと発足したのが「あらかわ区まちの駅ネットワーク」。地元の商店や企業、美術館など、現在区内には36カ所の「まちの駅」があります。「そもそもこの取り組みを始めた根底には、世の中の人と人のつながりがどんどん薄れてしまうことへの危惧があった」と話すのは、発起人で代表の小林清三郎さん。区内で不動産業を営んでいます。
「不動産屋の私が言うのもおかしな話ですが、このあたりの戸建て住宅も立派な家が増えましたよね。私が子どものころは隙間だらけの引き戸の家ばっかりで、学校から帰ってくると開けっ放しの窓から近所のおじさんやおばさんが“おかえり”なんて声をかけてくれてね」。プライバシーや個人情報がきちんと守られている現代とは異なる、「町中セキュリティみたいなものがあった」と小林さんは言います。「風通しの良い、人のつながりが地域にあってもいいんじゃないかな」そう思った小林さんの呼びかけに仲間が集まりました。

荒川区には名所がない?
それなら自分たちで作ろう

荒川区には名所がない?
それなら自分たちで作ろう

 主旨に賛同し「まちの駅」となった区内の36カ所には無料で休憩できる場所があり、トイレを借りることができます(現在、新型コロナウイルスの影響により中止している場合があります)。街歩きに訪れた人には地域の情報なども案内しています。最初のころは「荒川には観光名所もないし、特に案内するものもない」と消極的だった「まちの駅」の駅長さんたち。「それなら自分たちで名所を作ればいいんだ」と、企画開催したイベントが「俳句deあらかわ名所づくり」です。「松尾芭蕉の“奥の細道”で詠まれた場所が後世の名所になったように、みんなで俳句を読んで荒川の新しい名所をつくろう」と、2016年から2018年まで3年間にわたり開催しました。
「都電沿線のバラや、三ノ輪の浄閑寺、町屋の斎場など、皆さん荒川のさまざまな場所を詠んでくださって、497句も集まったんです」と投句集を見せてくれたのは、事務局長の明戸まゆみさん。「あらかわ区まちの駅ネットワーク」事務局として立ち上げから関わってきました。2019年には「あらかわまちの駅七福人ウォークラリー」など、「毎年><イベントをひとつは実現することを目標に活動してきました」と明戸さんは言います。

街のなかに「ゆるいすきま」
「ゆるいつながり」を

街のなかに「ゆるいすきま」
「ゆるいつながり」を

 海外から荒川区を訪れる人も増え「あらかわ区まちの駅ネットワーク」ではインバウンド対応の取り組みも進めてきました。「2019年から2020年にかけて、英会話のレッスンも開催してきました」と、明戸さん。2020年のコロナ禍の中でも街歩きならできるのではと考え、春と夏には「あらかわ下町博2020」も開催。「まちの駅でもらえるみどころカードを5枚集めた方に、まちの駅全駅で使える300円券を進呈しました」。
さまざまなイベントや活動が制限される中でも前を向き、地域を元気付けるために歩みを続ける「あらかわ区まちの駅ネットワーク」の駅長さんたち。代表の小林さんは「ソーシャル・ディスタンスをとらなければいけない今こそ、その副作用というわけじゃないけれど、人との交わりの大切さに皆が気付いてくれたら」と言います。「若者も高齢者も、子育て世代も、誰もがひとりで生きているわけじゃない。濃密なつながりじゃなくていい、ゆるいすきまから、ゆるくつながって、いろんな人が立ち寄る場所になれればいいですよね。駅って本来そういうところでしょ」。
恐竜好きな小林さんが駅長を務める「恐竜の駅」の窓辺には、ずらりと並ぶ恐竜模型。買い物帰りのお母さんと小さな男の子が釘付けになっていました。

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