とでんさんぽ

記憶に残る建築

街歩きエッセイスト チヒロと行く

記憶に残る建築

「ドラード和世陀」の外観。1984年、オーナーの意向で建築家の自由な発想に任せた結果、一度見たら忘れられない「ドラード和世陀」という住居はうまれた。奇抜に見えて、街と調和している。

ドラード和世陀」の1Fにあるギャラリーの入口は別世界への扉のよう。

「鳳山酒店」で見つけた、サントリーの前身の広告。

「ここはスペインか?」と、初めて見た人は驚愕するに違いない。日本のガウディと呼ばれる建築家・ が手がけた「ドラード」は、早稲田大学にある名建築、大隈講堂の目と鼻の先にある。全体のフォルムはガウディの「カサ・ミラ」のような、なめらかな曲線。外壁には「グエル公園」や「カサ・バトリョ」のようなモザイクタイルが一面に散りばめられている。

15年前からここでギャラリーと絵画教室を営む画家の小原聖史さん。コピーライターからアンティークショップ経営に転向、35歳で絵画に目覚め、今に至る。映画にも使われたという小原さんの作品には、物語に入り込んだようなファンタジックな世界が広がっていた。

ちょうど、ギャラリーで展示していた絵画教室の生徒が描いた作品が売れ、生徒と喜びを分かち合う小原さんの姿が。気取らず自由な佇まいと、この建物との共通点を見つけた気がした。

早稲田停留場を出て、面影橋あたりの車窓から見えるのは、神田川沿いの街路樹へそそぐ木漏れ日。そして鬼子母神前停留場に到着。東側の商店街を抜けると、立派な酒屋が目に入る。「鳳山酒店」は、震災の翌年に建てられた商家建築で、隣には足元がすくむほどの急坂で有名な富士見坂と日無坂がある。

現在3代目をつとめる高木さんは81歳。店名は、仙台の本家で醸造していた清酒鳳山に由来する。

この建物は、それはそれはいろんな出来事を見てきた。戦争ではぎりぎり焼け残った。高木さんが子どもの頃、近くには洋服屋やハンコ屋など商店を営む家族がたくさんいて賑やかだった。雪の日は、子どもたちが富士見坂をそりで滑って遊んだ。モノクロの写真アルバムを指差しながら、高木さんは「もっとたくさん撮っておけばよかったね」と呟いた。

街は変わる。その流れはどうしたって止められない。けれど、だからこそわたしは自分の目でしかと、今ある街並みを焼き付けておきたい。


チヒロ

浅草育ちの街歩きエッセイスト。 東京下町さんぽの魅力を届ける WEB マガジン「かもめと街」(www. kamometomachi.com)を運営。 Instagram:@kamometomachi

鳳山酒店

1924(大正13)年創業の酒屋。江戸時代から見られる一般的な商家の建築様式である出桁造りが立派な建築は、一見の価値あり。日本各地の酒や食料品を揃える。店先にある古いはかりにも注目。

住所
文京区目白台1-15-8
電話番号
03-3941-2291
営業時間
9:00~20:00
休み
日曜(祝日は営業)
アクセス
鬼子母神前停留場より徒歩約7分

DORADO GALLERY

「ドラード和世陀」の1Fにあるアートギャラリー。約1週間ごとに展示が変わり、さまざまなジャンルの作品に出会える。著名な画家による絵画教室が開かれ、絵の垣根を広げている。

住所
新宿区早稲田鶴巻町517 ドラード和世陀103
電話番号
03-6809-3808
営業時間
12:00~20:00
休み
水曜
料金
入場無料
アクセス
早稲田停留場より徒歩約7分
HP
http://doradogallery.main.jp/

※価格はすべて税込み表記です。年末年始の休業については各施設にご確認ください。
※このページの情報は2021年07月01日時点の情報になります。営業時間等、最新情報は各店舗にご確認ください。

Toden News